2021年 8月 5日 (木)

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「人の命を使ったロシアンルーレット」

   ところがこの問題についてもWSJ紙は9月3日付(電子版)の「ワクチン一番乗りの舞台裏」という記事で、疑問をぶつけている。脇見出しは「『人の命を使ったロシアンルーレット』との批判も」である。

   この記事によれば、プーチン大統領は国内で感染者が急増した4月に国内の科学者や医療当局者とビデオ会議を行い、「あらゆる手を尽くして直ちに国家のワクチンを開発せよ」との緊急指令を出したという。

   この記事によると、その後の経過はこうだ。

   ガマレヤ研究所は中国人科学者がインターネットに掲載していた情報を何週間も研究し、中東呼吸器症候群(MERS)のウイルス株との類似点を見いだした。ギンツバーグ所長によると、同研究所は既にMERSワクチンの開発に取り組んでいた。そのワクチンや、それ以前のエボラワクチンと似た処方を用いることで、素早いスタートが切られた。ガマレヤは2月下旬に開発に着手し、約1週間後、ワクチンの準備ができたとしている。

   ただ、ロシアは開発競争への参入が遅かった。ガマレヤ研究員らは3月末時点でネズミやウサギで試験を開始したが、オックスフォード大学やケンブリッジ大学の研究者は既にボランティアの人々に投与していた。

   その後数週間でガマレヤ研究所の対象は霊長類へ移り、4月に初めて自分たちにワクチンを接種した。6月中旬、正式にヒト臨床試験を開始したほか、国防省を通して兵士38人にワクチンを接種した。

   だが国内で感染者数が増え、コロナ禍が研究の障害となった。その間、研究者は民間ボランティアを募った。被験者によると、最初の2週間は他のボランティアと過ごし、誰も感染していないことを確認。7月にモスクワの病院に移送され、他の37人と共に医師らからガマレヤのワクチンを接種された。その後の4週間、防護服に身を包んだ研究者が食料を運んできたり、体温を測定し唾液を綿棒で採取したりする以外、誰とも接触することはなかったという。

   同紙は、「ロシアの研究者はボランティアわずか76人に対して早期段階の治験を完了したにすぎず、その結果は一切公表していない。4万人のボランティアを対象とする大規模治験は先週始まったばかりだ」とその拙速ぶりを指摘した。さらに、「その名称からも、地政学的優位に立つこと、第1号になることが全てであることは明らかだ」という米国在勤のロシア人ウイルス学者コンスタンティン・チュマコフ氏の言葉を紹介した。同氏は、「素晴らしいワクチンかもしれないが、とにかくわからない」と述べ、「人の命を使ったギャンブル、ロシアンルーレットだ」と批判したという。

   政治家による圧力という点では、アメリカのトランプ大統領も同じだ。こちらは当面、11月の大統領選がデッドラインになっており、トランプ氏は「ワクチン競争のゴールラインは近づいている」という選挙広告を出し、「大統領選前に接種可能になる」と繰り返し示唆した。また、米食品医薬品局にはツイッターで、「ワクチンや治療法を試すのを難しくしている」と言及し、早期承認への圧力とも受け取れる言動を取った。

   トランプ米大統領は9月7日の会見でワクチンについて触れ、「非常に早期に用意できる」という見通しを示し、「極めて特別な日付より前になる」可能性があると語った。

   また、トランプ氏はワクチンの用意が記録的な速度で進んでいると強調し、「オバマ政権時代なら、ワクチンが手に入るまで3年はかかっただろう。最後まで準備できなかったかもしれない」と付け加えた。

   米CNNは9月8日の電子版で、この「特別な日付」が、大統領選を指すかもしれないとの見方を示した。

   他方、民主党の副大統領候補に決まったカマラ・ハリス上院議員は、CNNとのインタビューで、大統領選より前に作られたワクチンの安全性を疑問視する発言をしていた。これに対し、トランプ氏は、科学を否定する「政治的な言説」と非難し、ハリス氏に謝罪を求めるなど、すでにワクチンは白熱する大統領選の「政争」の具になっている。

   今回のワクチン開発の過熱化を見て、私は90年代に取材した国連日本政府代表部の外交官の言葉を思い出した。日本は湾岸危機の教訓を踏まえ、当時のEC諸国と協力して「国連軍備登録制度」を提唱し、国連総会で可決された。武器の輸出入を申告して軍備移転の透明化を図る狙いだ。その提唱に携わった外交官は、武器輸出をワクチンにたとえた。

「ワクチンも武器も、いざ必要な時に製造ラインを作ろうとしても間に合わない。しかし、需要がなければ製造ラインを維持するコストがかかりすぎる。そこで余剰を海外に輸出する。武器を輸出しているのは、国連安保理の常任理事国の五大国です」

   五大国にとって、武器はまさに「戦略物資」なのだろう。コロナ禍は、同じような意味で、外交を有利に進める「戦略物資」になろうとしているのだろうか。

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