「演者は受け手に対するリスペクトを忘れてはいけません」
前掲の影山氏は、松尾さんに批判が集まった理由を2点挙げた。まず、「素人」という表現が「軽視した印象を与える」と指摘。次に、普段は「ソフトで柔らかくて優しい」というイメージがあるため、より批判されやすいのではないか、と説明した。
「演者は受け手に対するリスペクトを忘れてはいけません。芸人を中心とする演者のあいだでは『素人』という言い方をしますが、対外的には避けた方がいい。これは問題になるから避けた方がいいのではなく、受け手に対するリスペクトが心の中にあれば、上から下へという印象を与える『素人』という表現は使わないだろうと思います」
また影山氏は、「受け手も演者に対するリスペクトを忘れてはいけない」とも。松尾さんの発言には「同じ芸人仲間を守ろうというきっかけがあった」と一定の理解を示し、この発言全体を冷静に判断することも大事だとする。
松尾さんと永野さんは似たような発言をしていたが、その内容自体やその受け止められ方にはどのような違いがあるのか。
影山氏によれば、永野さんは「素人」ではなく「一般人」という表現を用いていたことに加え、普段から偽悪的なキャラクター像がある。この2点に松尾さんとの違いがあったとする。また、周囲の反応によっても発言の受け止められ方が変わるという。
「松尾さんと長田さんも名コンビで良いと思いますが、『チャンスの時間』の司会を務める千鳥のコンビも天下一品です。永野さんのキャラクターもありますが、千鳥がドンと構えて笑いにしてくれる。永野さんの周囲がより巧みだったという部分も大きいと思います」
SNSでは、芸人の発言を「本音」と「芸」で見分ける声もある。だが影山氏は、「芸人が本音100パーセントで話すことはないです」と説明する。
タレントのマツコ・デラックスを例に挙げ、「踏み込んだ発言をしてから『私ちょっと嫌いじゃないかも』などと言ってバランスを取る。緻密な計算に基づいています」。芸人の発言には「本音を言ってるように見せる芸」があって、その技術に違いがあるとする。
最後に影山氏は、改めて「受け手に対する敬意を持って発言するならば、表現には慎重にならないといけない」と指摘している。