家族仲が良くても、相続の場面では思わぬトラブルが生じることがある。「うちは仲がいいから大丈夫」と油断していると、兄弟姉妹間での争いに発展しかねない。特に、遺言書がない場合、法定相続分に従って財産が分けられるため、本人の希望や事情が反映されず、対立の火種になりやすいからだ。実際に起きた事例をもとに、ファイナンシャルプランナー(FP)から見たトラブル回避の方法を紹介したい。兄弟ゲンカ勃発! 実家の土地が家族を分裂させた相続をきっかけに、兄弟姉妹の関係が壊れてしまうケースが後を絶たない。親が遺言書を残さないまま亡くなった場合、「誰が家を継ぐのか」「どのように財産を分けるのか」を巡って、感情的な衝突が生まれやすくなるからだ。それは、相続は単なるお金の問題ではなく、「家族の歴史」や「親への思い」が絡み合うデリケートな出来事だ。遺言書がなかったことで起きたこんな事例がある(※プライバシー保護のため内容を一部脚色しています)。父親が亡くなった後、実家の土地をどうするかで兄弟姉妹が対立。長男は「自分は、子どものころからこの家を守ってきた。親の面倒も見てきたんだ。だから、この家は自分が継ぐのが当然だ」と主張する。一方で、次男は「相続は平等に分けるものだ。土地を売って現金にして、きっちり分けるのが公平だ」と譲らない。話し合いのたびに、言い争いはヒートアップし、最初は冷静だった長女も、次第に疲れ果ててしまった。3人の関係は「もう実家の話はしたくない」「家族のLINEを見るのもつらい」と感じるほど、関係はぎくしゃくしていった。親戚や配偶者まで口を出すようになり、「誰が正しい」「誰が欲深い」といった陰口が飛び交い、家庭の雰囲気は一気に悪化してしまった。結局、話し合いではまとまらず、弁護士を通して、家庭裁判所で調停を行うことになった。最終的には、土地を売却して分割することで和解しましたが、兄弟姉妹の間には深い溝が残ったのだった。法定相続分と本人の希望のズレが火種に法律上、遺言書がない場合は「法定相続分」に従って、相続手続きが行われる。しかし、これが本人の希望と、必ずしも一致するわけではない。たとえば、母親が「長女に家を継がせたい」と思っていても、遺言書がなければ、全員平等に分配される。そのため結果として、希望通りにならなかった子どもが不満を抱き、兄弟姉妹間で対立することがあるのだ。さらに、預貯金や有価証券、保険などの財産も含めると、全体像が不透明なまま、分割が始まることがある。情報の不足が誤解を生み、相続トラブルが加速する原因になるだろう。「遺言書の作成」と「資産の見える化」を相続トラブルを防ぐために、FPの立場からおすすめしたいのが「遺言書の作成」と「資産の見える化」だ。遺言書には「この土地は長男に」「預貯金は均等に分ける」など、具体的な分割方法を明記しておくことで、相続開始後のもめごとを大幅に減らすことができる。特に、公正証書遺言であれば、法的効力が高く、争いになるリスクも抑えられる。また、生前に財産の全体像を整理して、家族と共有しておくことが大切だ。土地や建物、預貯金、株式、保険など、あらゆる資産を「見える化」することで、「知らなかった」という誤解や心理的な不安を避けられる。家族で資産状況を話し合い、将来の分け方について意見交換するだけでも、円満な相続につながるものだ。この2つのステップを踏むことで、法律や税金の問題を整理するだけでなく、家族の心理的な安心感が生まれる。「遺言書の作成」と「資の見える化」で、家族に不要な負担や不安を残さず、笑顔で相続を迎える準備を始めたい。【プロフィール】石坂貴史/証券会社IFA、AFP、日本証券アナリスト協会認定資産形成コンサルタント、マネーシップス運営代表者。「金融・経済、住まい、保険、相続、税制」のFP分野が専門。