人が亡くなった後、家族が向き合うのは相続の問題だけではない。生前に大切にしていたペットの世話を誰が引き継ぐかが決まっていないと、感情と負担が交錯し、意見がぶつかりやすい。単身高齢者が増えるなか、ペットの行き先が未定のまま最期を迎えるケースは、今後さらに増加するだろう。今回は、ある家族間の葛藤をもとに、ペットの行き先と相続の問題を考えたい。ペットの行き先問題で家族が対立したケース東京都内で一人暮らしをしていた和子さん(仮名・78歳)は、愛犬の「サクラ」と生活していた。毎朝の散歩は欠かさず、定期的に動物病院に通うなど、細やかに世話をしていた。サクラの健康状態や食欲の変化も把握し、体調が悪い時はすぐに対応していた。しかし、亡くなった後の引き継ぎについては、具体的に準備しておらず、「もしもの時は家族に任せる」と漠然と考えていた程度だった。その後、病気で和子さんが亡くなり、葬儀後にサクラの引き取り先をどうするか、話し合いが始まった。長女の美紀さん(仮名・50歳)は共働きかつ多忙で、軽いアレルギーもあり、室内で飼うのは難しい状況だった。「仕事の帰りも遅く、毎日の散歩や通院は無理」と説明し、気持ちはあっても、世話は現実的にできないことを伝えた。長男の隆さん(仮名・48歳)は地方勤務で、住居がペット不可である。妻の両親との同居もあり、生活環境的に引き取るのは困難だった。「住んでいる環境や両親の生活にも、影響が出るかもしれない」と現実的な問題を訴え、費用負担も悩みの種となった。愛犬の「サクラ」は高齢で、心臓に持病があり、通院費は毎月約1万円ほどである。今後、治療費が増える可能性もあると医師から告げられていた。美紀さんは「世話ができないのに、費用だけ負担するのは難しい」と訴え、隆さんは「引き取れない事情があるのに、費用を求められるのは困る」と反論。話し合いは平行線をたどった。親族への依頼は難しく、民間のペット預かり施設や譲渡団体を検討した。最終的には短期・長期両方に対応できる施設に預けつつ、将来的に譲渡団体で新しい飼い主を探す形で落ち着いた。費用負担も家族で分担し、相続財産の話し合いと並行して整理された。(※プライバシー保護の観点から、一部内容を脚色している)ペット問題のもめごと、どのように避ける?今回の事例は、生前にペットの行き先や、費用負担を決めていなかったことで混乱が生じた典型例だ。外部の力を借りて解決したものの、事前の計画の重要性が浮き彫りになった。長期間の世話や費用は一人に偏りやすく、気持ちだけでは決めにくい。対策としては、体調や世話の内容、治療費の見通しを家族で共有し、負担を明確にすることが必要だ。引き取りが難しければ、今回の事例のように、譲渡団体や預かり施設の活用も有効である。FPが考える、世話と費用の分担ルールペットの世話や費用は数値化しにくく、不公平感が生じやすいため、家族間で対立が起きやすい。相続財産の分割のように明確な基準がないため、世話や費用についても、事前に整理しておくことが重要だ。具体的には、必要な世話や医療費の目安を示し、分担の形を決めることが基本となる。世話が難しい家族が費用を多めに負担するなど、状況に応じた調整も現実的である。相続の話し合いと並行して取り決めることで、感情的な対立や、混乱を避けやすくなる。単身高齢者が増える中、同様の問題は今後さらに増えるため、生前に家族と話し合っておきたい。【プロフィール】石坂貴史/証券会社IFA、AFP、日本証券アナリスト協会認定資産形成コンサルタント、マネーシップス運営代表者。「金融・経済、住まい、保険、相続、税制」のFP分野が専門。