再婚家庭では、介護をきっかけに家族の関係が大きく変わることがある。今回の事例は、介護中に情報が一方的にしか伝えられなかったことで、相続の話し合いが深刻な対立に発展したケースである。
介護を担った配偶者と実子の間に溝
恒一さん(仮名)は60代で再婚して、再婚相手の直子さんと二人で暮らしていた。前の結婚で生まれた子どもは、長男の翔太さん(仮名)と長女の真理さん(仮名)である。二人とも独立しており、父親と会うのは年に数回程度であった。
再婚当初は、大きな問題はなかった。距離はあったが、表面上は穏やかな関係だった。しかし、恒一さんが体調を崩したことで状況は一変する。
通院が増えて、日常生活にも支障が出始めると、介護はすべて直子さんが担う形になった。翔太さんと真理さんには連絡は来ていたが、その内容は「今は落ち着いている」「様子を見ている」といった抽象的なものばかりであった。
電話で詳しく聞こうとしても、「本人が話したがらない」「心配をかけたくないと言っている」と言われて、直接話すことはできなかった。
やがて、恒一さんの通帳や支払いも直子さんが管理するようになった。翔太さんが「念のため、状況を教えてほしい」と伝えても、「こちらで対応できている」「余計な心配はいらない」と返されるだけだった。
恒一さんが亡くなった後、相続の話し合いの場で、空気は一気に重くなった。翔太さんと真理さんが目にした預金残高は、想像していたよりも、はるかに少なかったのである。
数年間にわたる出金履歴には、用途が分からないものが並んでいた。「これは何に使ったのか」と尋ねると、直子さんは「介護と生活費」と答えた。詳しい説明を求めると、「そんなに細かく覚えていない」「疑われるのは心外だ」と声を荒らげた。
その直後に、直子さんは「恒一さんは、この家は私が住み続けるものだと言っていた」とも話した。翔太さんと真理さんは言葉を失った。そのような話は一度も聞いたことがなかったうえ、その時期は、恒一さんの判断力が落ちていた頃と重なっていたためである。
翔太さんがその点を指摘すると、直子さんは「介護もしていない人に、何が分かるのか」と強く反発した。真理さんが「私たちは何も知らされていなかった」と訴えると、「あなたたちは任せきりだった」と言い返された。
話し合いは、財産の分け方ではなく、互いを責め合う場に変わった。「なぜ教えてくれなかったのか」「なぜ今さら口を出すのか」――。介護をした側と、知らされなかった側の感情が正面からぶつかり合った。
結局、相続の話はまとまらず、家族関係も修復できないままとなった。表面上は介護が原因に見えるが、実際には、介護期間中に情報が一方的にしか流れなかったことが、対立を決定的にしたのである。(※プライバシー保護の観点から、内容を一部脚色している)