「最後尾はこちらですよ」怒りゼロの淡々とした一言
山田さんの前に並んでいた、紳士風の男性がこう声をかけたという。
「すみません、最後尾はこちらですよ」
怒気はない。声を荒げることもない。あくまで「案内」のような、落ち着いた口調だった。
割り込みを試みた女性は一瞬黙り込み、「え?」と怪訝そうな表情を浮かべた。「私たちグループなんですけど」と言いたげな雰囲気もあったそうだ。
すると男性は、次ように言葉を添えた。
「皆さん、早くから並んでいらっしゃるので......」
その場にいた数人が、はっきりとうなずいた。言葉で責めるわけではないが、「そうそう」という同意が伝わるような無言の圧が、列の中で共有されたのだ。佐藤さんも思わずうなずいていた。
割り込みをしようとした女性は「あ、はい」と短く返し、友人に「後で連絡する」と言葉を残して、最後尾のほうへ歩いていった。
「揉めなかったんです。言い争いにもならない。それでも、ちゃんと『割り込みがダメ』が通りました。あの言い方は、本当に勉強になりました」
行列の中に、小さな一体感のようなものが生まれた気がしたという。
初売りの行列には、早朝から寒さに耐えて並ぶ人たちの暗黙の了解がある。だからこそ、「知り合いだから」「グループだから」といった曖昧な理由での途中合流は、不公平感を生みやすい。
一方で、当事者同士が感情的に注意すれば、思わぬトラブルに発展する可能性もある。今回のように、事実だけを淡々と伝える対応は、場の雰囲気を荒立てずルールを守らせる現実的な方法といえるだろう。
年始の高揚感が強い時期だからこそ、並ぶ側も運営する側も、周囲への配慮を忘れずにいたい。