アメリカがベネズエラに対して軍事行動を開始し、ニコラス・マドゥロ大統領夫妻を拘束した。軍事行動後、ドナルド・トランプ大統領が「ベネズエラは我々が運営する」と発言し、現地のみならず国際社会にも大きな衝撃を与えた。主権国家への軍事介入という異例の行為に、各国からは批判の声が相次いでいる。高市早苗首相は、どう対応していくだろうか。歴史的に繰り返されてきた「主権国家への軍事介入」今回の事態は、アメリカが過去に他国へ軍事介入してきた歴史を思い起こさせる。1983年のグレナダ侵攻、2003年のイラク戦争など、アメリカは軍事力を用いて他国の政権に介入し、統治者を排除してきた事例が数多く存在する。なかでも今回と重なる部分が多いのが、1989年のパナマ侵攻である。当時、麻薬組織と深く結びつき、反米姿勢を強めて軍事独裁政権を敷いていたマヌエル・ノリエガ将軍に対し、ジョージ・H・W・ブッシュ政権は「米国民保護」「麻薬取引対策」を大義名分に侵攻を実施した。アメリカ軍は圧倒的な軍事力で首都パナマ市を制圧し、最終的にノリエガ氏を拘束して米国へ移送した。アメリカがパナマ侵攻に至った理由として、麻薬犯罪の蔓延、治安悪化、民主主義の後退など、ベネズエラの現状と類似したキーワードが見られる。しかし今回のケースでは、作戦直後にトランプ大統領が「適切な政権移行が実現するまで」との前置きがあるとはいえ、「アメリカがベネズエラを運営する」と明言するなど、統治権への直接的介入を表明した点で、より踏み込んだ行動と言える。背景に指摘される新「モンロー主義」この強硬姿勢の背景として取り沙汰されているのが、トランプ政権の新「モンロー主義」である。モンロー主義とは、19世紀に打ち出された「欧州勢力の西半球干渉を拒む」というアメリカ外交の基本理念であり、中南米を事実上の勢力圏とみなす発想を支えてきた。トランプ政権は2025年12月に国家安全保障戦略を発表し、「われわれはモンロー主義の精神を継承し、実行する」と宣言したとされる。近年、中国やロシアがラテンアメリカで影響力を強めるなか、それらの進出を排除する方針を鮮明に打ち出した格好だ。ベネズエラのマドゥロ政権は中国・ロシアと緊密な関係だったため、その排除はアメリカにとって地政学的利益をもたらすという見方もある。中国・ロシアに"口実"を与えるリスクしかし今回の軍事介入は、かえって中国やロシアに対し、「アメリカが主権国家へ軍事介入した」という格好の材料を与える可能性がある。とくに両国は、自らの勢力圏に外国勢力が干渉することへの警戒を強めており、「国内問題への外部介入を正当化する先例をアメリカがつくった」と主張する余地が生まれた。これは国際政治の緊張をさらに高める懸念をはらむ。日本にとっても今回の事態は他人事ではない。日本政府は台湾やウクライナをめぐる問題において、「力による一方的な現状変更を認めない」「主権と国際法を尊重する」という立場を一貫して掲げてきた。しかし、同盟国であるアメリカのベネズエラ侵攻を黙認すれば、こうした外交原則の説得力は大きく揺らぎかねない。高市首相は2026年1月4日、Xで以下のコメントを出した。「ベネズエラでの事案を受け、日本政府としては、私の指示の下、邦人の安全確保を最優先としつつ、関係国と緊密に連携して対応にあたっています。ベネズエラ情勢については、日本政府として、これまでも、一刻も早くベネズエラにおける民主主義が回復されることの重要性を訴えてきました。我が国は、従来から、自由、民主主義、法の支配といった基本的価値や原則を尊重してきました。日本政府は、こうした一貫した我が国の立場に基づき、G7や地域諸国を含む関係国と緊密に連携しつつ、引き続き邦人保護に万全を期するとともに、ベネズエラにおける民主主義の回復及び情勢の安定化に向けた外交努力を進めてまいります」今後、米国批判を避けつつ、主権尊重の立場をどこまで貫けるのか――日本の外交姿勢が問われる局面となっている。
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