高市早苗首相は2026年1月31日、川崎市内での衆議院選挙の応援演説で、現状の円安傾向について「輸出産業にとって大チャンス」「外為特会(外国為替資金特別会計)の運用、今ホクホク状態」と発言した。
一国のリーダーによるこの言葉が引き金となり、円売りが加速した。週明けの2月2日には対ドル相場は1円70銭ほど下落した155円台半ばを記録、さらに2月5日には一時157円台まで下落した。
こうした状況に、メガバンクのみずほ銀行がチーフマーケット・エコノミスト名義で、「高市演説を受けて〜危うい現状認識〜」という異例のアラートを発令する事態に発展している。
なぜ、これほどまでに市場は冷ややかな反応を示したのか。それは、首相の発言が、現代の日本の産業構造や国際的な金融のルールから大きくズレているからである。
円安は我々の生活を直撃する「見えない増税」
1980年代以降、長らくの円高で、多くの日本企業は工場を海外へ移し、国内の産業が空洞化した。
アベノミクスが「円安になれば輸出製品が安くなってたくさん売れ、国内の工場が潤う」という狙いのもとに円安基調を志向したが、国内企業の海外投資傾向は戻らなかった。
すでに円高傾向の間に多くの企業は「海外で作って、海外で売る」モデルを主流にしていたからである。
そのため、円安になっても、国内の生産が増えて輸出が伸びるという効果は、今やほとんど期待できない。
一方で、円安による副作用はかつてよりずっと深刻だ。
一部の大企業が海外で稼いだ利益は、円に換算すると数字の上では大きく見えるが、その利益は海外での再投資などに回され、国内の給料アップや新しい設備投資にはつながりにくい。
その一方で、日本はエネルギーや食料の多くを海外からの輸入に頼っている。円の価値が下がれば、それらの輸入コストがすべて跳ね上がる。これは、私たちの生活費を直撃する「見えない増税」のようなものだ。
実際、日本の企業の99.7%は中小企業で、その多くは海外から材料を仕入れて国内で商売をしている。
帝国データバンクが2024年に行った調査によれば、企業の約64%が円安を「マイナス」だと答えており、倒産する企業の数も11年ぶりに1万件を超えるほどに増えたのだ。