あなたの周りに「俺、昔は『やんちゃ』しててさ......」という話をする人はいないだろうか。
現在は一定の成功を収めている大人が、「昔は悪いことをしていたけれど、今は更生して立派になった」と語るエピソード。
しかし近年、SNSなどでこの「やんちゃ」が、自分の過去を都合よくロンダリング(洗浄)する免罪符になっているのではないかという意見が、多く見られるようになった。
「やんちゃ」という語の変遷と現在の機能
『精選版 日本国語大辞典』によれば、「やんちゃ」とは「小児が、または小児のように、わがまま勝手な振る舞いをすること。だだをこねて無理を言うこと」という意味だ。つまり、「わんぱくな子ども」の行動を指す言葉であった。
では、この「やんちゃ」がいつから好意的な意味合いを持つようになったのかは、はっきりしていない。
ただ、1970年代以降の「大人が押しつけるルールへの反発」から始まった不良文化と結びつくかたちで、「やんちゃ」という言葉に中高生の非行も含まれるようになっていったようだ。
そして、「やんちゃ」語りを最も後押ししたのは、90年代後半以降のテレビのバラエティー番組の影響が大きいだろう。テレビ文化を通じて、「やんちゃ」は過激だけれど愛嬌のある人物像を想起させる、ひとつのラベルとなっていった。
とくにトーク主体の番組では、学生時代にレールから外れた芸能人たちが、自身の過去の行為をおもしろおかしいエピソードとして語ることで、「若いころの失敗を糧にした」「既存のシステムにとらわれない人間」として視聴者に好感を与える装置になり得たのである。