日本経済の概況

現状

不景気のトンネルを抜ける

日本産業は、2004年に入ってから、バブル崩壊とその後続いた不景気のトンネルから脱し、本格的な回復への道を歩んでいる。先行きに対する超悲観論は影を潜め、経営者たちはいま自信を回復しつつある。

東京の汐留地区に新しく建設された高層ビル群
東京の汐留地区に新しく建設された高層ビル群

   大企業に限ってみれば、建設などごく一部の業種を除くと、ほぼ全業種が利益を伸ばしている。この景気を引っ張っているのは第一に自動車だ。トヨタ自動車日産自動車ホンダの「日本ビッグ3」だけで、2004年3月期決算の当期利益の合計が2兆円を上回る。そして、携帯電話を中心とした通信、エレクトロニクスといった「デジタル関連」も景気回復の柱になった。さらに、長らく低迷に苦しんでいた大手電気メーカーも軒並み黒字を確保している。好調の波は素材産業にも及んだ。鉄鋼、化学などはバブル景気にわいた1990-91年以来の高水準になっている、と専門家は推定する。中国を中心に世界的に需要が伸びたのが原因だ。

逆に、元気がない筆頭は建設業界だ。国の財政が苦しくなり、政府や自治体が行う公共事業費が減らされているのが響いている。この業界では「談合」、つまり競売や請負入札に際し、入札者が事前に入札価格などを協定すること、が慣習的に行われてきた。近年、談合が成立しにくくなり、これが入札価格の下落を招いたのも原因のひとつとされている。このほか、国の補助金や助成に頼る割合が多い産業は依然低迷している。農業がその代表格だ。

自動車業界が景気を引っ張る

日産自動車栃木工場のロボット機械の生産ライン
日産自動車栃木工場のロボット機械の生産ライン

 かつて日本は「世界の工場」といわれるほど製造業、つまり「モノ作り」に圧倒的に強かった。戦後まもなくは繊維、続いて鉄鋼、化学、高度成長期以降は家庭電化製品やエレクトロニクス、といった具合だ。しかし、家庭電化製品では、台湾、韓国、最近は中国に追い上げられ、製造工場を海外に移したり、生産を縮小したりしている。1980年代に世界トップだった半導体。DRAMと呼ばれる記憶素子(メモリー)で一時は世界市場の80パーセントを独占していた。ところが、韓国メーカーの急成長や米国企業の立ち直りで、大手は次々と撤退し、日本を代表する産業の面影はさらさらない。パソコンも同じような道をたどりつつある。例外はデジタルカメラ。OEM(相手先ブランドによる生産)を含めると、世界市場の75パーセントを日本製が占める。

 そうした中で、世界一の座を保っているのが、自動車である。自動車はあらゆる意味で日本を代表する産業だ。経済産業省の統計によると、国内生産額は38兆円近くに達し、全製造業の13パーセントを占める。また関連の企業で働く人口は、日本自動車工業会の推定で、約700万人、日本の全就業者数の1割強にのぼる。また、乗用車の生産台数(2002年)は年間862万台に達し、ドイツ512万台、米国502万台を抑え、世界一である。日本の強い産業の代表だ。ほかの伝統的な製造業が軒並み苦戦している中で、突出した存在になったのにはいくつか理由がある。自動車は一台あたり2-3万点の部品から組み立てられる。工作機械、金型、ロボット、エレクトロニクスといったさまざまな分野の協力、総合力の勝負となる。産業の裾野が広い日本はこの点有利だった、といえる。さらに、「カンバン方式」と呼ばれるトヨタ独自の生産方式の浸透、ハイブリッドカーに代表される技術開発力、そして米国、欧州でも現地生産が成功していることなどが挙げられる。


弱いソフト業界で例外はテレビゲーム

若者に人気の日本のビデオゲーム
若者に人気の日本のビデオゲーム

弱い産業のひとつはソフトである。コンピューターソフトの開発・生産や映画などの映像分野でも米国に大きく差をつけられている。そのなかでテレビゲームだけは例外で、高い世界市場占有率を維持している。米国では、人気ゲームソフトのほとんどが日本製、ゲーム機の販売台数の70パーセント以上が日本製だ。漫画やアニメーションの質が高く、人材も豊富なことが、日本のゲームソフト産業を支えている。

好調さを維持する日本産業の最大の弱点は、銀行を中心とする金融業である。日本の銀行、金融業界は戦後一貫して、旧大蔵省の強力な指導と監督の下にあり、相互参入も認められず、商品についても個別企業が創意、工夫をする余地がなかった。規制緩和、自由化の実施も遅れ、コスト面などの競争力で欧米に差をつけられてきた。しかも、バブル崩壊で巨額の不良債権を抱え、大手でさえ倒産の危機に瀕した。結局、金融機関の合併、吸収、連携の動きが加速するのは2000年前後からである。2004年秋の段階では、「みずほ」「三菱東京」「三井住友」「UFJ」「りそな」「三井トラスト」「住友信託」の7大金融・銀行グループに再編成されている。それでも、バブル崩壊の打撃から完全には立ち直っておらず、2004年3月期決算でも「UFJ」「りそな」は赤字を計上した。

農業、建設、食品、エネルギー、卸・小売といった産業は、現在でも、米国に比べて生産性は3分の2程度にとどまる、と言われている。補助金や国の保護行政によって、「退出すべき」企業が居座っているからだ。公的な規制を減らせば、国民の負担軽減にもつながり、行政は簡素化、効率化して、民間の力を発揮する場が広がる。こうした基本方針の下に、1980年代から政府は本格的規制緩和に乗り出した。成果は徐々にあがってはいるものの、まだ抵抗勢力は健在だ。道路公団の民営化は決まり、2007年から郵政事業が民営化される予定だ。当面、郵政の民営化がスムーズに進むかが、将来を占う鍵となりそうだ。

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