2024年 4月 19日 (金)

外岡秀俊の「コロナ21世紀の問い」(42)政治学者、宮本太郎氏と考える福祉のこれから

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「社会民主主義」の限界

   戦後の日本には、西洋型の「社会民主主義」を標榜する政党がなかったことは前に触れた。では、グローバル化の時代に、西洋型の「社会民主主義」は手本になるのだろうか。

   宮本さんは、かつての「社会民主主義」もまた、行き詰まりを見せている、という。

   宮本さんによると、西洋の「社会民主主義」には、大きく分けて二つの類型がある。

   一つは、英米を中心とする「アングロ・サクソン」型だ。米民主党改革派のビル・クリントンは、1992年、「おなじみの福祉は終わらせる」というスローガンを掲げて政権の座に就いた。ここにいう「おなじみの福祉」とは、長い間アメリカの福祉の主柱だったひとり親世帯への生活保護を指す。クリントンはこの「要扶養児童家庭扶助」(AFDC)を抜本的に改革した。給付期間を限定する一方、職業訓練や保育サービスを手厚くし、それでも就労が難しい場合には、自治体が雇用の機会を提供するという仕組みに改めた。「福祉依存から就労へ」軸足を移す改革だ。

   英国でも労働党のトニー・ブレアが「ニュー・レイバー」の看板を掲げて1997年の総選挙で圧勝し、10年に及ぶ長期政権を率いた。彼はいわゆる「第三の道」路線を採用した。これは社会学者のアンソニー・ギデンスが唱えた福祉の改革案だ。安定した雇用や家庭を前提とした従来型の福祉国家は、雇用の流動化や、一人親世帯の増大などの新たなリスクに対応できない。そこで、職業訓練などの支援型サービスを「社会的投資」と位置づけ、社会を活性化するという考えだった。

   ブレア政権は教育改革にも力を入れ、低所得世帯の子どもを支援し、若者の就労を促した。こうした流れを一口にいえば、福祉受給者を含めて人々が仕事に就き、人的資本として機能することを目指したものであった。教育や職業訓練による支援も掲げられたが最小限で、グローバル化を推し進めるアングロ・サクソン型の「新自由主義」に近かった。

   二つめの類型は、スウェーデンに代表される北欧型の社会民主主義だ。「第三の道」が貧困が広がったあとに保護をする「事後的補償」を柱とするのに対し、北欧型は「事前的予防」に力を入れる。これは就学の前からどのような経済状況であっても子どもに教育の質を保障し、その後も成人教育や職業訓練などを通して、継ぎ目なく学び直しの「生涯教育」の機会を提供するシステムだ。

   スウェーデンは、こうした生涯教育を労働政策に連動させ、「同一労働同一賃金」の原則を守りつつ、生産性の低い企業から、高い企業へと働き手を誘導する仕組みを築いた。

   福祉によって学び直しの機会を与えつつ、より成長する産業に人材を投入する路線だ。

   だがこうした二つの「社会民主主義」モデルは、日本にはそのまま持ち込めないだろう、と宮本さんは言う。「第三の道」は、グローバル化を推し進める「新自由主義」と表裏一体だし、日本のように「新しい生活困難層」が広がった社会では、北欧型の制度もそのままでは適合しない。明日の生活費にも事欠く人々に、「生涯教育」を保障しても、すぐには支えにならないからだ。

   さらに、ある程度は荒波をくぐって持ちこたえてきた二つの「社会民主主義」も、限界に近づきつつある、と宮本さんは言う。グローバル化によって貧富の格差はいよいよ大きくなり、経済のIT化や産業構造の転換が急速に進んだため、「社会的投資」が追い付かなくなってしまったためだ。つまり、「社会民主主義」そのものを再設計するしかない、というのが西洋の現状なのだという。

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