2024年 4月 23日 (火)

外岡秀俊の「コロナ21世紀の問い」(42)政治学者、宮本太郎氏と考える福祉のこれから

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健康で文化的な最低限度の生活

   憲法第25条には、次のような文言がかかれている。

「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」

   もちろん、「健康で文化的な最低限度の生活」は時代によって、国の財政力によって、意味するものは異なるだろう。「健康」という言葉も、感染症対策はもちろん自然環境を保全し集中豪雨など気候変動を抑えるなど、激変する時代環境に応じて意味するものは変わっていく。「文化的」という言葉も、今ならITへのアクセスが当然含まれるに違いない。つまり、コモンズを開いていく、ということだ。

   だがそうしたことも含めて、この条文は、すべての人を、現金給付、公共サービスを通して、生活を成り立たせるコモンズにつないでいく宣言と読むことができる、と宮本さんはいう。

「最低限度の生活とは何なのかは人によって受け取り方が違う。憲法第13条の幸福追求権ともつなぎ、カスタマイズできてよい。これまで福祉の措置制度とつなげて解釈されがちだったこの条文を、より前向きに、コモンズを開いていくことも含めた、これから目指すべき福祉のビジョンにも射程が届くものと読み直してはどうでしょうか」

   コロナ禍のさなかに、欧米各国や日本では一律に現金を給付して急場をしのいだ。これを、「ベーシックインカムが現実化した」とみなす論者もいた。だが、そうした一過性の現象を議論の前提にしてはならないだろう。

   コロナ禍は、宮本さんがいう「新しい生活困難層」に、より多くの苦難を強いている。これまで福祉の恩恵を受けられなかったうえに、ぎりぎりの生活を支えてきた雇用までが流動化し、不安定なものになっている。まさにこうした時にこそ、「福祉」の出番といえる。これまで30年の「福祉改革」の成果と限界を踏まえ、今こそコロナ後を見据えた「福祉」を再構築する時だろう。宮本さんの話をうかがって、強くそう思った。

ジャーナリスト 外岡秀俊




●外岡秀俊プロフィール
そとおか・ひでとし ジャーナリスト、北大公共政策大学院(HOPS)公共政策学研究センター上席研究員
1953年生まれ。東京大学法学部在学中に石川啄木をテーマにした『北帰行』(河出書房新社)で文藝賞を受賞。77年、朝日新聞社に入社、ニューヨーク特派員、編集委員、ヨーロッパ総局長などを経て、東京本社編集局長。同社を退職後は震災報道と沖縄報道を主な守備範囲として取材・執筆活動を展開。『地震と社会』『アジアへ』『傍観者からの手紙』(ともにみすず書房)『3・11複合被災』(岩波新書)、『震災と原発 国家の過ち』(朝日新書)などのジャーナリストとしての著書のほかに、中原清一郎のペンネームで小説『カノン』『人の昏れ方』(ともに河出書房新社)なども発表している。

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