2024年 4月 25日 (木)

外岡秀俊の「コロナ21世紀の問い」(42)政治学者、宮本太郎氏と考える福祉のこれから

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

「福祉刷新論」の成果

   宮本さんは、こうした「福祉刷新論」が、1993年の非自民連立政権誕生から、1994年の自社さ政権成立という、二政権にわたる「例外状況」において、「介護保険制度」として結実したという。

   これは社会保障の給付が行政の職務権限によって行われる従来の「措置制度」から、利用者の権利としてサービスの給付を受ける福祉制度への転換という意味では、画期的だった。介護保険も半分は国と地方からの税財源で支えられるが、利用者は保険料納付の実績を基に、サービスを権利として自治体に申請できる。しかもこの制度のもとで利用者は、ケアマネジャーを選んで最適なケアプランを作成してもらい、営利企業、非営利組織などを含む多元的な事業者にサービスの給付を求めるという独自の方式を導入した。

   もちろん、こうしたビジョンが、その後も順調に定着したわけではない。少子高齢化とグローバル化が進んだ21世紀に入り、小泉純一郎政権(2001~06年)は構造改革と支出抑制に舵を切り、05年以降の介護保険改革では施設居住費と食費が外され、介護予防や地域包括ケアという考えが重視されていく。もちろん、いずれも「普遍主義的な福祉」の実現に向けた重要な考え方だが、問題はこうした方針転換が、支出抑制の口実に使われたことだ。介護予防サービスは多様化する一方、自治体によっては同居家族がいる場合には生活援助を受けられないなど、介護利用が制限される傾向が強まった。

   また「地域包括ケア」も、それ自体としては意義のある考えだが、本来その実現を目指すのであれば、より大きなコストを必要とするのに、実際は「地域包括ケアシステム」を通して、要介護認定率を引き下げ、介護保険料を抑制することが奨励された。つまり、ビジョンとしては正しい方向が打ち出されたにもかかわらず、財政基盤の縮小に応じて、「磁力としての新自由主義」が次第に影響力を強め、制度を変質させてしまう。

   こうしたビジョンの変質は、民主党と自民党の相次ぐ政権交代後に導入された「子ども・子育て支援新制度」や、「生活困窮者自立支援制度」でも同様だった。ビジョンそのものは価値があるのに、それが消費税増税の「切り札」として使われ、導入後は次第に支出抑制で制度が縮小するか、サービスが切り下げられてしまう。

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中