「無農薬天日乾燥米」伝統的な米作りを学ぶ
2001年に朝日新聞社を早期退職した私は、妻の出身地である塩沢地区の古家に引っ越した。
山を背に、隣家まで200メートル。目の前は田んぼが1キロ先まで広がっている。塩沢地区の中でも、さらに土質と微気象がすぐれている場所だと聞いた。
東京に通いながらしていた仕事が一段落したので、2007年、田んぼのイロハを開始。同時に、隣の老夫婦にお願いして、3畝(せ=1畝は約100平方メートル)の細長い小さな田んぼで、コメ作りを教わることにした。自分たち自身でも、米作りを深く学ぼうと思ったからだ。
自分の田んぼではすべて手作業、農薬は使わないと決めた。幸い、昭和一桁世代の隣人は、耕運機も化学肥料もなかった時代の稲作を知っている。当時すでに80歳近かったおばあさんが、軽々と三本グワで田起こし作業をしてみせてくれた。で、自分でやってみると、クワが地面に刺さったまま、まったく動かない。引っ張っても、土はびくともしない。おばあさんが代わってくれて、ひょいと動かすと、去年の稲株がコトンと手前に倒れ込むように起きてくる。
そんな経験をさせてもらって19年目の今年もまた、田んぼに向かっている。
3畝の田んぼで出来るコメは100キロに届くかどうか。無農薬田んぼなので草取りが大切なのだが、仕事の関係で数週間手抜きすると、イネと雑草の区別がつかなくなることもある。50キロしか取れなかった年もある。日本人の平均のコメの消費量は年間50キロ。なので、ちゃんと作れば、夫婦2人分のコメは出来る。自給はそんなに大変ではない、と分かる。